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蒲団 (小説) : ウィキペディア日本語版
蒲団 (小説)[ふとん]

蒲団』(ふとん)は、田山花袋の中編小説。日本の自然主義文学を代表する作品の一つで、また私小説の出発点に位置する作品とされる。「新小説」1907年(明治40年)9月号に掲載され、のち易風社から刊行された『花袋集』(1908年)〔収録作:蒲団、隣室、ネギ一束、春の町、アリュウシャ、勝公、家婢、田舎ゆき、県道、マウカ、姉、少女病、一兵卒、キス以前〕に収録された。末尾において主人公が女弟子の使っていた夜着の匂いをかぐ場面など、を露悪的なまでに描き出した内容が当時の文壇とジャーナリズムに大きな反響を巻き起こした。
==作品の背景と影響==
日露戦争後の当時、島崎藤村の「破戒」(1906年)が非常な喝采を博し、国木田独歩の「独歩集」が好評であり、「私(花袋)は一人取残されたような気がした。(略)何も書けない。私は半ば失望し、半ば焦燥した」という状況にあった(「東京の三十年」)。
花袋は「破戒」を強く意識しつつ、ハウプトマンの「寂しき人々」も参照し、自身に師事していた女弟子とのかかわりをもとに「蒲団」を執筆した。自分の恋愛をモデルにした小説としては、これより先に森鴎外の「舞姫」があったが、下層のドイツ人女性を妊娠させて捨てるという内容であり、女弟子に片想いをし、性欲の悶えを描くという花袋の手法ほどの衝撃は与えなかった。小栗風葉は「蒲団」の「中年の恋」という主題に着目して、「恋ざめ」を書いたが、自然主義陣営の仲間入りはできなかった。以後3年ほど、花袋は文壇に君臨したが、一般読者にはあまり受けなかった。
「蒲団」は私小説の出発点と評されるが、私小説の本格的な始まりは、1913年(大正2年)の近松秋江の「疑惑」と木村荘太の「牽引」だとする平野謙の説〔『日本文学大辞典』(1948年)「私小説」の項など〕がある。
花袋の盟友ともいうべき島崎藤村は、その後、姪との情事を描いた「新生」(1919年)を書いて花袋にも衝撃を与えた〔新聞連載で「新生」を読んだ花袋は「島崎は自殺するかも知れない」と心配したという。平野謙「島崎藤村 人と文学」(1960年)〕。花袋や藤村はその後、むしろ平凡な日々を淡々と描く方向に向かった。

抄文引用元・出典: フリー百科事典『 ウィキペディア(Wikipedia)
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